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大阪地方裁判所 平成4年(ヨ)4479号 決定 1992年12月25日

債権者

大木吉春

(他五名)

右債権者ら代理人弁護士

河村武信

蒲田豊彦

債務者

株式会社商大八戸ノ里ドライビングスクール

右代表者代表取締役

雄谷治男

右代理人弁護士

香月不二夫

平田薫

主文

一  債務者は、債権者大木吉春に対し、金五七万三六七三円を、同茅野広治に対し、金五七万二五〇四円を、同橋本作次に対し、金五七万九六八三円を、同松本修に対し、金四九万五六四〇円を、同柏﨑安一に対し、金四九万一二七〇円をそれぞれ仮に支払え。

二  債権者村井嘉治の申立てを却下する。

三  申立費用は、債権者大木吉春、同茅野広治、同橋本作次、同松本修、同柏﨑安一に生じた費用と債務者に生じた費用の六分の五を債務者の負担とし、債権者村井嘉治に生じた費用と債務者に生じたその余の費用を債権者村井嘉治の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

債務者は債権者らに対し、別紙請求権の表示記載の各金員を仮に支払え。

第二当裁判所の判断

一  争いのない事実、本件疎明資料及び審尋の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  債務者は、肩書地において、自動車教習所を営む株式会社であり、債権者大木吉春、同茅野広治、同橋本作次、同松本修及び同柏﨑安一は、債務者の従業員であるが、債権者村井嘉治は、平成四年一二月一七日までは債務者の従業員であったものの、それ以後は定年退職により債務者の従業員ではない。なお債権者らは、いずれも全国一般労働組合大阪府本部大阪自動車教習所労働組合商大自動車教習所分会(以下「組合」という)に所属している。

2  組合は、債務者に対し、平成四年一一月六日、平成四年年末一時金につき、基準内賃金と家族手当てを加えた額の四か月分と一律一〇万円の要求をした。これに対し、債務者は、同年一二月三日、協定書(案)と題する書面((書証略)以下「協定書案」という)をもって回答した。

3  債務者は、右協定書案のうち、「Ⅳ特別評価」と題する項において、従前の組合と債務者間の一時金協定における特別評価よりも、無断欠勤などにつき減額査定幅を増やし、また校長・管理者注意処分につき、新しい減額査定項目を追加した。

4  組合は、債務者に対し、同年一二月一六日、協定書案のうち、「Ⅳ特別評価」のほか、冒頭部分、「支給対象者」「支給配分方法」「各人別所定労働時間数の決定」の各項の一部等について、「同意致し兼ねます」などと記載された平成四年度年末一時金妥結通知書((書証略)以下「妥結通知書」という)を交付した。その後、債務者は、同日、組合に対し、妥結通知書の撤回を求めるとともに、協定書案に「Ⅶ支払日」「Ⅷ上記のことを、すべて承諾し調印します」という二項(従来の協定書にはなかった条項である)を追加した協定書((書証略)以下「本件協定書」という)を交付し、それに署名押印すれば、本件協定書に基づき、一時金を支払う旨の意思表示をした。

5  そこで、組合は、右同日、本件協定書の内容をすべて受諾することにして署名押印し、翌一七日、債務者に対し、早期の一時金の支払いを求めて本件協定書を交付しようとしたところ、債務者は、妥結通知書を撤回する旨の書面がないことを理由に本件協定書の受け取りを拒否し、本件協定書に記名押印しなかった。

6  なお組合と債務者との間における従前の一時金の交渉においては、組合が債務者の提示した一時金協定の案に対し、今回と同様にその都度不同意の妥結通知を債務者になしたうえ、それを書面で撤回しないまま協定書に調印し、その結果、債権者らは一時金の支給を受けていた。

二  以上の認定事実によると、債務者が組合に署名押印を求めて本件協定書を交付し、これに対して組合が本件協定書の内容を全て受諾して署名押印をした以上、本件協定書に基づき一時金を支払う旨の合意(以下「本件合意」という)が成立したというべきである。なお債務者は、本件協定書に記名押印をしていないので、本件合意に労働協約としての効力はないが、そのことが本件合意の成立を左右するものではない。

債務者は、組合が先になした妥結通知書を撤回することが本件協定書に調印することの条件であったと主張するが、組合が従来の協定書にはなかった「Ⅷ上記のことを、すべて承諾し調印します」という条項を含め、本件協定書の内容をすべて受諾して署名押印をした以上、妥結通知書は実質的に撤回されたものというべきであるから、組合がその撤回を書面をもってなさず、それ故債務者が本件協定書の受け取りを拒否し、本件協定書に記名押印をしなかったとしても、本件合意の成立に影響を及ぼすものではない。(債権者らも、妥結通知書の存在を理由に本件合意の成立を争うことはできないというべきである)

三  そうすると、債権者大木吉春、同茅野広治、同橋本作次、同松本修、同柏﨑安一は、本件合意に基づき、平成四年年末一時金として、債務者に対し、別紙請求債権の表示記載の各金員の支払請求権を有することになる(金額については、当事者間に争いがない)。また本件疎明資料によると、右各金員の仮払いの必要性も認められる。

しかし、債権者村井嘉治については、本件合意の内容となっている本件協定書では、支給対象者として、「支給日当日在籍する者」でなければならないところ、本件協定書が規定する支給日以前の平成四年一二月一七日をもって定年退職して債務者に在籍せず、一時金の支給対象者ではないので、債務者に対し、一時金支払請求権を有しないことになる。

四  結論

債権者大木吉春は、同茅野広治、同橋本作次、同松本修、同柏﨑安一の各仮処分命令申立てはいずれも理由があるので、事案の性質上担保を立てさせないでこれらを認容し、また債権者村井嘉治の仮処分命令申立てについては、被保全権利の疎明がなく、理由がないので、これを却下することとする。

(裁判官 大段亨)

(別紙) 請求債権の表示

一、大木吉春 五七三、六七三円

二、茅野広治 五七二、五〇四円

三、橋本作次 五七九、六八三円

四、村井嘉治 五九九、三四八円

五、松本修 四九五、六四〇円

六、柏﨑安一 四九一、二七〇円

合計 三、三一二、一一八円

《政令・省令》

政令第六三号

労働基準法第三十二条第一項の労働時間等に係る暫定措置に関する政令

〔昭和六二年一二月一一日政令第三九七号

改正 平成二年一二月一八日政令第三五七号

平成四年八月二八日政令二九一号

平成五年三月二六日政令第六三号

(下線部分が今回改正された箇所)〕

(一週間についての労働時間)

第一条 労働基準法(以下「法」という。)第百三十一条第一項の規定により読み替えて適用する法第三十二条第一項の適用する法第三十二条第一項の命令で定める時間は、四十四時間とする。ただし、次のいずれかに該当する事業又は事務所については、平成六年三月三十一日までの間は、四十六時間とする。

一 法第八条第一号から第四号まで、第八号、第十四号若しくは第十五号の事業又は同条第十七号の事業若しくは事務所のうち、常時百人以下の労働者を使用するもの

二 法第八条第五号、第十号又は第十三号の事業のうち常時三十人以下の労働者を使用するもの

(第二条以下 略)

附則

1 この政令は、労働基準法の一部を改正する法律(昭和六十二年法律第九十九号)の施行の日(昭和六十三年四月一日)から施行する。

2 平成六年三月三十一日においてその労働時間について第一条ただし書の規定が適用されている労働者に関しては、同日を含む一週間に係る労働時間については、同条ただし書の規定の例による。

3 使用者が法第三十二条の二から第三十二条の四までの規定により労働させることとしている労働者であって、平成六年三月三十一日においてその労働時間について第一条ただし書の規定が適用されているものに関しては、協定等の期間のうち同時を含む協定等の期間に係る労働時間については、同条ただし書の規定の例による。

(以下 略)

附則

(施行期日)

1 この政令は、平成五年四月一日から施行する。

(経過措置)

2 平成五年三月三十一日においてその労働時間についてこの政令による改正前の労働基準法第三十二条第一項の労働時間等に係る暫定措置に関する政令(以下「旧令」という。)第一条ただし書の規定が適用されている労働者(この政令による改正後の労働基準法第三十二条第一項の労働時間等に係る暫定措置に関する政令(以下「新令」という。)第一条ただし書の規定が適用されるものを除く。)に関しては、同日を含む一週間に係る労働時間については、新令第一条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

3 使用者が労働基準法第三十二条の二から第三十二条の四までの規定により労働させることとしている労働者であって、平成五年三月三十一日においてその労働時間について旧令第一条ただし書の規定が適用されるもの(新令第一条ただし書の規定が適用されるものを除く。)に関しては、新令第二条第二項に規定する協定等の期間(以下「協定等の期間」という。)のうち同日を含む協定等の期間に係る労働時間については、新令第一条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

《参考》

改正後の法定労働時間の枠組み

<省略>

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